交通事故でしばしば問題になるのが、頸椎捻挫(むち打ち症)と後遺症認定の問題です。
1 むち打ち症における等級
むち打ち症の場合、後遺症の等級には次の3つがあります。
①12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
②14級9号 局部に神経症状を残すもの
③非該当 全く後遺症として認められないもの
12級と14級の区別は、他覚的所見が認められるかどうか、言い換えると単なる自覚症状ではなくて、何か客観的な所見があるかどうかによります。他覚的所見が認められる場合は12級となり、自覚症状のみの場合は14級か非該当になります。
2 12級13号が認められる場合
「他覚的所見が認められる場合」とは、①画像的所見または②神経学的異常所見が認められる場合です。
画像的所見とは、例えば頸椎の4番目と5番目が狭くなっていて神経を圧迫しているということがレントゲン写真等により画像上明らかであるということです。
また、神経学的異常所見とは、腱反射、病的反射、筋委縮、知覚障害等です。
医学的には、通常、両者は整合し、画像所見と神経学的異常所見は一致するとのことです。頸椎の4番目と5番目の間で神経が圧迫されている場合には、それが腕の神経につながり、腱反射や病的反射といった異状を来すことになるようです。
3 12級13号が認められず、14級9号になる場合
他覚的所見が認められず、自覚症状のみの場合は12級13号とならず14級9号になります(念のために申し上げると自覚症状があっても14級9号も認められず、後遺症非該当となる場合が多いのが実情です)。
なお、専門的になりますが、他覚的所見が認められても、12級13号が認められない場合として次のようなケースがあります。
1つは、レントゲンやMRIの画像上、変性(異常所見)が認められるが、これが外傷性の変性ではなく、加齢性・経年性の変性の場合です。要するにレントゲン上変性は認められるが、交通事故によるものではなく、年とともに自然に出てきたものとであると判断される場合です。
2つめは、神経学的所見において、異常が認められても整合性がない場合です。例えば、後遺症診断書に握力が異常に低下している旨の記載があるものの、腱反射や筋委縮が認められない場合などのようです。これだけ握力が低下しているのだから、腱反射や筋委縮が絶対あるはずだということで、医学的に説明がつかないので12級と認められないということのようです。
4 14級9号も認められず、後遺症非該当となる場合
自覚症状があっても14級9号と認められず、非該当となる場合が多いのが実情です。
主な例は次のとおりです。
①症状が軽微な場合
自覚症状のみの場合は、常時痛みを感じる場合でないと、非該当とされることが多いようです。
例えば、後遺障害診断書の自覚症状欄に「雨天時に頸部痛」とか「長時間歩行時に頸部痛」と記載されていて、痛みが常時ではなく時々であるという場合には、後遺症は認められません。
②事故態様が軽微な場合
事故態様が極めて軽微な場合も後遺症非該当とされることが多いようです。例えば、バンパーやドアミラーをちょっと擦っただけというような場合には、通常その程度の事故であればむち打ち症は発生しないだろうということになります。
③通常の治療経過と相違する場合
治療の経過が通常と異なる場合も後遺症が認められにくくなります。
具体的にどういう場合かというと、まず「初診が遅い場合」です。一概に何日間という基準はありませんが、事故にあってから1週間以上経ってから初めて病院に行ったような場合は認められにくいようです。
通常、むち打ち症というのは事故直後よりも数時間経過してから症状が出ることが多いと言われています。それでも痛みが出てくれば、通常その日のうちか翌日には病院に行くのが通常であると考えられています。従って、何日も経ってから病院に行ったという場合には、その間にどうしても外せない仕事があった等といった特別な事情があったことを合理的に証明できない場合には、痛みがなかったから病院に行かなかったと判断されてしまいます。
同様の理由から「治療中断がある場合」、例えば3か月間くらいは定期的に通院していたが、3か月経ったころから1か月ないし2か月間くらい全然病院に行っておらず、その後に再び通院を開始したような場合です
また「医学的に説明がつかない」という場合も後遺症が認められません。具体的には「診療途中から症状が悪化、憎悪する場合」や「診療途中から新たな症状が出現した場合」などです。